なくて七癖、あって四十八癖

2020/03/29Note

人には多かれ少なかれ癖があるものだ。そして、癖と言えば負の材料として数えられる場合が多い。その上、自分ではそれと気づかないのが癖であるからして始末が悪いのだ。

それでも、世の中は良くしたもので【蓼(たで)食う虫も好き好き】と、ちゃんと逃げ道を用意してくれている。

 

私がアパレル業界に身を置いていたころ、通い詰めたラブ(アクセントはに付けていただきたい)があった。

世間はバブルで浮かれまくっていたころで、その手の店は千万無量の状態だった。それでも、その店を贔屓にしていたのは、ある魅力的な女性が在店していたからに他ならない。

正直、今となっては、彼女の容姿などまったく思い出せないのだが、薄い記憶をたどれば、私と大差ない年齢だったので、今はとうに還暦は過ぎていると思う。

道ですれ違っても判らないだろう。でも、これをやられたら絶対に見逃さないと確信を持てることがある。

それは、彼女がときおり見せた唇を噛む癖なのだ。それこそが、私が通い詰めた根源でもある。

癖だろうから、恐らく彼女は気づいていなかったに違いない。饒舌にしゃべった後などに、しゃべり過ぎたとでも思うのだろうか、決まって唇を噛んで押し黙った。

私はその唇の噛み方にやられてしまった訳である。【痘痕(あばた)もえくぼ】とは、このことだろう。だとしても、あんなにも魅力的に唇を噛む女性に出逢ったことが無かったのだ。

願わくば、いま一度、お目にかかりたいと思わずにはいられないのである。

Note

Posted by Haru