Lush Life

 

my Styleに女性の独り客は珍しくないが、かなりの酒豪となれば別である。

 

『なるべく強いバーボンをロックでください』

オーダーはそれだけだった。

私は迷わず【Very Old St.Nick 15years】をカウンターに置いた。

どことなく淋しそうな彼女に【Blanton・Cask】や【Booker’s】なんて野暮なチョイスは似合わない。やっぱりここは、ニック爺さんだろう。

そして、どうやらそのチョイスは間違っていなかったようだ。

ひとくち飲んだ彼女の唇が『お・い・し・い』と動いてくれた。

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彼女が座ってから、4枚目のアルバムがはじまった。

彼女のペースは変わらない。アルバムの枚数だけオーダーがくり返されている。

私でもそろそろいい心持になってくる量だが、彼女の所作には然したる変化がない。ときたま涙らしきものが溢れそうになるだけだった。

いつもなら何かと世話をやきたがる常連客も、今夜は大人しく飲んでいる。

何かを忘れたくて飲む酒。それも、いいかも知れない。でも、酔いが醒めれば同じこと。行き着く先はLush Lifeだろう。

今夜の彼女も、そろそろ潮時かな。

私は【JOHN COLTRANE & JOHNNY HARTMAN】のCDをセットし、4曲目の【Lush Life】をリピート・モードでスタートさせた。

この便利さがCDならではの機能だ。LPだと難しい。

さてさて、私の思いは彼女に伝わるだろうか。

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ジョニー・ハートマンの甘い声が流れはじめた。

相変わらず彼女のペースは変わらない。

ヴァースが終わり、コーラスがはじまる。

コルトレーンのオブリガードが心地よく歌に絡む。

飲み干したグラスを思案気に見つめている彼女。

コルトレーンのソロがはじまった。彼のバラード・プレーには暖かみがある。

時間の流れが、ゆったりと感じられる。

そろそろ飲みはじめてもいい時刻だ。私も自分のグラスをバーボンで満たした。

ハートマンがリフレインを歌いだす。

“ ロマンスなんてものは。。。”

カウンターに置かれた彼女の手が、飲み干したグラスを思案気にもてあそんでいる。

“ 。。。そこで酔いつぶれて朽ち果てながら ”

余韻を残しながら曲が終わった。

彼女の視線はグラスに溶け込んだまま動かない。

再びマッコイ・タイナーのイントロが流れだした。

彼女の視線が私に向けられる。

どうやら私の思いは伝わったようだ。

ドラマの中の粋なマスターなら、ここは、こじゃれた台詞を吐く場面だろうが、生憎、私はそんな素養など持ち合わせていない。失礼にならない程度に、彼女からの視線を絡めとるのが精一杯である。

二度目のヴァースが終わり、コーラスがはじまったところで、彼女が口を開いた。

『ごちそうさまでした』

彼女が、入ってきたときよりも、心なしかしっかりとした足取りで店を出て行ったのと、常連客が煙草に火をつけたのは、同時だった。

 

 

※ これはフィクションで実際のmy Styleとは関係ありません。。。たぶん