恋は、始まるまでが素晴らしい

好きなことを生業(なりわい)にできて羨ましいと、よく言われる。確かに、好きな酒とJazz、そして読み散らかした本に囲まれた暮らしは、そうかもしれない。

振り返ってみると、my Styleを開いて以来、営業時間や仕込みを除いても店にいる時間が圧倒的に多いし 『落ち着ける場所は?』 と訊かれたなら、間違いなく 『店!』 と答えるから、幸せ者なのだろう。

五十路に入り、体力、気力の衰えを感じ始めたころ、相方に『店を開きたい』と言った。相談ではなく一方的に宣言したのだ。その時、一瞬(つかのま)ではあるが、私の倍以上も大きな彼女の目が点になったのを、今でも思い出す。

とは言え、宣言はしたものの店舗探しに手間取り、結局、店の契約を交わすまでに半年以上かかってしまった。しかし、契約すれば当然のように家賃が発生する。つまりは、一刻も早く開店することが次ぎの目標になった訳だ。

そこで、オープンを一ヵ月後と決め、開店準備を始めることにした。ライフ・ラインの契約を済ませ、ガス工事などの専門家の手を借りなければならないところはお願いして、椅子やテーブルなどの備品を調達するあたりまでは、まだまだ余裕があった。

それが、オープンまで残すところ半月を過ぎたあたりから、雲行きが怪しくなってきたのだ。店内の改装作業が遅れだしたのである。

設計図らしきものは私の頭の中にあるだけなので、材料を切るにしても、その場にあてがって、印をつけ、手ノコで切断。オーディオ・ラックが完成し喜んだのもつかの間、サイズが合わずに作り直し。

それ以外にも、左のスピーカーの置き場所がない!座敷の畳の捨て場所は?片側のシャッターが動かない!などと、想定外の出来事も重なり、大幅な遅れがでてしまった。

そこで、迫り来る開店日時に焦りを隠せない私を見かねてか、いよいよ相方の登場となった。腹を据えたときの彼女は、私より数倍のパワーを発揮する。

深夜にもかかわらず、作業後の掃除や大工道具の片付けから、果ては、慣れない手つきで、カウンターのサンダーがけからペンキ塗りまでこなしてくれたのだ。

困ったときの相方頼みは、このときに始まった訳ではないが、お陰で何とか予定通りに開店ができた。日頃から、この店は私たち二人で創りあげたと豪語してやまないのは、それが土壌にあるからである。

【恋は、始まるまでが素晴らしい】

これは、私の好きな言葉である。

始まるまでは心をときめかすのが【恋】であっても、始まってしまえば切なさや淋しさを連れてくる。そして、舌先に残ったザラツキは【恋】が終わったあとも、中々消えてはくれない。それでも【恋】することをやめない人が、私は好きだ。

my Style は、私の人生で最後の恋なのかもしれない。始まって12年以上も続いている恋。ザラツキどころか辛酸をなめながらも、いまだにやめる気が起きない。

ワイルドを目指したつもりが、まんまと相方の術中に嵌り、気がつけば、どことなくアンニュイさが漂う店になってしまったが、相方同様、私には欠くことのできない存在であることに間違いないのである。

Dec. 2004, & Apl. 2017, by:Haru

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