終の棲家

てっきり、ここが終の棲家になるであろうと思ってきたマンションを引っ越した。

さしたる不都合があったわけでは無い。それどころか、至極、快適に暮らしていた。相方ともどもエアコン嫌いとはいえ、このご時勢に、エアコン無し(使わないのではなく、エアコン自体が存在しない)で暮らせる環境など珍しいだろう。それが、ひょんな出逢いから話が進み、気がつけば居を移すことになっていたのだ。

新居となったのは、築数十年になる二階建ての家である。部分的にリフォームされてはいるが、正直言って、かなり古い。そして、家全体は妙に広いが、浴室は狭く洗面スペースが無い。6階建てとの風通しは比べるべくもなく、流石に、エアコンは欠かせない。生活環境を比較すれば、低下したことになる。

なのに何故。。。

相方の念願だった引き戸の玄関? 店から歩いて30秒の距離? 1,2階合わせると8部屋もある広さ? 内装を自由にできる期待感? どれもが当てはまるような気もするが、どれが決め手かと問われれば、思い当たるものは無い。

それでも、ここへ越してきたのは、終の棲家として私たちを誘ってくれた、この家の空気のしわざのように感じてしまう。

以前、この家には、ご高齢のご夫妻が住まわれていた。声をお掛けしたことはないが、店から近いこともあり、これまで幾度となくお見かけしてきた。ご夫妻にとって終の棲家であるこの家に、同様な思いを抱く、私たちが住まわせていただけるのも、妙な縁である。

引っ越してきて、今日で1週間。まだまだダンボール箱に囲まれながらの生活だが、片付けの合間に、相方とコーヒーを飲みながら、いつものようにたわいない話をしていると、今では、ここに越してきて良かったと思えている。